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「ごめんな」
その言葉に、少女はぐったりとうなだれた。 人通りのない放課後の渡り廊下。そこにいたのは3人の中学生。手紙で呼び出された詰襟姿の少年は心底申し訳なさそうに頭を下げた。 「他に好きな人がおる」 それ以上は何も言わせられなくなる言葉に、一緒に来ていたもう一人の少女は涙ぐむ少女の肩を支えた。 「サイテー!」 肩を落とす少女の代わりにもう一人が言い捨てて、二人でその場から立ち去った。 「あー、ムカつく!メグは悪くないよ。あんな男こっちから願い下げ!」 帰り道で通学鞄を肩にかけなおしながら野田ちづるは言った。 「う…うん、ありがと」 涙を拭きながら肩までの髪を揺らした。 「でもダメ元だったし言えただけでもよかった。水吹(みなぶき)くんは島村先輩もフラれたっていうし……」 「そう島村先輩が…」 当たり前のように聞いて、ちづるは振り返った。 「島村先輩って3年の!?」 島村先輩といえば校内一の美女と名高い男女共に憧れの存在だ。それをフるとはどれだけ理想が高いのだろう。 「え〜っと〜美人は好みじゃないのかも」 「……それフォローになってない」 ちづるの言葉にメグの頭上に暗雲が立ちこめる。 その時だった。 白い大きな鳥が二人の頭上に現れた。 「な、何…?」 「あれ、飼育小屋の…」 言うと、鳥はくわえていた四葉のクローバーを1本メグの手のひらに乗せる。 「え?何これ……」 言葉を待たずに鳥は飼育小屋の方に飛び去っていった。 「あ、行っちゃう!私追いかけてみる!メグは?」 「わ、私は無理よ!ちづるみたいに足速くないもん!」 もともとこんなことには消極的な少女は断った。走り去るちづるが見えなくなってから、メグはクローバーを大切ににぎりしめた。 「よしよし、いつもありがとさんな」 飼育小屋の前で西夜は白い鳥に話しかけてきた。鳥も心得たようで少年の肩に止まってから飼育小屋に戻っていった。 「何それフッた相手みんなにそうしてるの?」 「え?あ?さっきの…」 「『さっきの』じゃない。私、2組の野田ちづる」 「ウチは…」 「知ってる。1年3組水吹西夜(みなぶきせいや)くん」 ふと顔を直視して、ちづるは目を伏せた。 初めて気づいた。 白い羽根が降る中で水吹くんが 「成績優秀スポーツ万能の有名人」 まるで 「関西弁は小学生のとき引っ越してきたから」 天使みたいだったって 「今のところ特定の彼女はいない」 バカなこと 「違う?」 「い…いや…」 「あの鳥何?まさか水吹くんがクローバーを届けさせたの?どうやって?お詫びのつもり?」 「どうやってって……う〜ん…特技…かな?」 「特技って鳥にクローバーを届けさせるのが?」 「それだけやのうて、小さい頃から動物の言うとることが分かるんや」 恋に堕ちるのは 「でもどうせ誰も信じへんから」 なんて簡単なことだろう 「これは秘密にしてな」 最後の1枚の羽根がちづるの肩に落ちた。 ![]() |
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「考えたらさ、男なんて水吹くんだけじゃないもんね。前向きに前向きに…ね、ちづる!」
学校から3駅行ったところにあるケーキバイキングの店でこれでもかとフルーツケーキを並べながらメグ…中本恵は言った。ちなみにもちろん校則違反である。 「…って、聞いてる、ちづる?」 「ちづる!!」 上の空を大声で現実に引き戻す。 「あ、ごめん!聞いてなかった!」 「も〜!」 「そーいえばあの鳥、やっぱり水吹くんとカンケーあったの?」 「え…えっと…う〜ん」 ひとしきり悩んだ後、出した答えは 「秘密!」 「え〜何それ?」 「えへへへ〜」 「さっきからちづる、なんか変〜」 翌日、理科室への教室移動のとき、偶然3組の教室前でちづると恵は西夜と出くわした。西夜は罰が悪そうに恵の方を見る。恵は泣きそうな顔でちづるの背に隠れた。 「おはよっ」 その沈黙を破ったのは明るいちづるの声だった。 「おはよう、水吹くん」 長い髪を翻してとびきりの笑顔で言う。言って手を振ると隣の校舎の方に向かった。 「ち…ちづる…」 恵がおずおずと口を出す。 「フツーにしてればいいの!メグは悪いことしたんじゃないんだから!」 「う…うん!」 恵が笑顔で頷いた。 「ありがと、ちづる」 「い…いや」 その無邪気な笑みに、少々の罪悪感が胸の中を締めつけた。 (私が話したかっただけなのになぁ) 「水吹くん」 陸上部をサボって帰る西夜をちづるは掴まえた。 「あ、えっと…の…野田さん」 「やだなぁ、そんなに怖がらないでよ」 言って一歩前に出る。 「サイテーって言ったの謝ろうと思って」 「いや、ウチが悪かったんやし」 「でも水吹くんに好きな人がいるって驚いたな」 「どんな人?私も知ってる人?」 「う〜ん」 西夜はしばらく考えて、唇の前に人差し指をたてた。 「やっぱ秘密」 「え〜!?」 ちづるはプーッと頬を膨らませた。 「水吹くんってさりげに謎な人だよね。 陸上部もエースのクセに幽霊部員だし」 「それは友達があんま熱心に誘うから、試しに測ってみたらタイムがよかっただけで…」 「でもどうせ住んでる所も秘密って…」 「え?ここやで」 突然立ち止まって西夜が指さした先は 「ここって…」 「うん」 「神社。 親戚の家なんやけどここの離れに妹と居候中」 長い神社の向こうに見える鳥居が目立つ。地元の人間ならこの場所を知らない人はいないだろう。 「時実(ときざね)神社なら毎年初詣に行ってるよ」 「ほんま?ならお得意さんや。お賽銭奮発してな」 「ねぇ、今度遊びに行っていい?妹さんにも会いたいし」 「え?」 この時の一瞬の間にちづるは気づかなかった。 「あ…え〜っと、また…今度……今度な」 「じゃあまた明日」 その時は本当に思ってた。 「うん、また明日」 友達でいいって メグに幸せになってほしいって 思ってた 思ってたんだよ 「あー!!」 朝、通学鞄を開けた途端叫び声をあげた。 「どうしたの?」 「数学の教科書忘れた〜!」 「あーあ、橋元センセに、こってり絞られるんだね」 「うわ〜やだ〜……あ!3組って今日、数学あったよね。水吹くんに借りてくる」 でも私は 自分のことに せいいっぱいで (なんで水吹くん?) 「あ、水吹くんだ」 帰り道、恵と他愛もない談笑をしていたら、歳のわりに小柄な後ろ姿を見つけた。 「お〜い、水吹くん!」 「えっ、ちづる!?」 西夜は振り返る。 「あぁ中本さんと野田さん」 「今帰り?また部活サボったの?先輩に怒られるよ〜」 自分の身勝手さに 気づかなかった |
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「プレゼント?」
ある日、廊下で西夜と出くわした時だった。 「うん、来週やろ?ウチじゃ、何がいいか分からんで、見立てしてほしいんや」 「それいい!絶対喜ぶよ!」 「せやろ?」 「じゃぁ土曜の11時に駅の西口で」 駅に時間ぴったりに現れたちづるを西夜はいつからか待っていた。 「おはよー、あれ?髪下ろしてるやん」 「うん、校則で結んでただけだから」 「へー、そっちの方が可愛いで」 ちづるは思わず頬を赤らめる。 (違う、特別な意味はないんだ) 「か、可愛いとか簡単に言わない方がいいわよ!」 そのまま切符を買って繁華街に向かう。軽いランチを済ませ、雑貨屋を数件回る。駅に着いたらもう陽は落ちていた。家まで送るという西夜に遠慮しつつも言葉に甘えることにした。 (あれ…これちづるの…間違えて持って帰っちゃったんだ) 通学鞄を見て、恵は一冊余分に持っている国語の便覧に気づいた。 (宿題出てるから困るだろうなぁ……) 「お母さん、ちょっとちづるの家行ってくる」 「あら、もう遅いから気をつけるのよ」 「うん」 言うと玄関を駆け出した。 「今日はありがと」 家の前まで来て、西夜はニコッと笑った。 「おかげでええモンが見つかった。なんかお礼せえへんとな」 「え〜いいよ、そんなの」 「いや一日つき合うてもろたのにそんなわけにはいかへんて」 ちづるはふと思いついた。 「え〜じゃあねぇ」 これを言ったら西夜がどんな反応を示すか試してみたかった。 困らせてみたい。 ごくごく軽い気持ち。 「キスして」 言って振り返った 「な〜んて」 途端 「ね」 ちづるの唇に西夜の唇が重ねられた。 目を丸くしたのは、ちづると、恵。 ちょうどその光景を目の当たりにした恵の手から音もなく便覧がこぼれ落ちる。 しかし、そんな事には構わず二人に気づかれないうちに早足で踵を返した。 とても長い時間のようできっと一瞬だったのだろう。 西夜はゆっくりと唇を放した。 「『お礼』やからね」 じゃぁ、おやすみ、と言うと西夜も踵を返した。 ちづるは唇に指を当て、後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。 ヤバい どんどん深みにハマってく ふと、道に落ちている一冊の本に気づく。 自分の名前の描かれた国語の便覧。 心当たりと言えば… 「……メグ…?」 |
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翌々日の放課後、廊下の掃除をしていると走って帰る西夜が目に留まった。
「もう帰るの?」 「うん、妹が風邪ひいてしもうて」 「もうちょっと待ってくれたら、一緒に帰れるけど…」 「ごめん、妹が心配やから」 「妹さんそんなに具合悪いの?家に誰もいないとか?」 「…いや、熱もあらへんし、ばあちゃんはおるけど…」 「だったらそんなに急がなくても……」 「ごめん」 顔は笑っていたが強い口調で西夜は両手を合わせた。 「今日は早う帰りたいんや」 パタパタと走り去る西夜を見送り、残念そうにちづるは首をかしげる。 「あ〜あ、フラれちゃったぁ」 イヤミな口調に、てっきり西夜のファンからの陰口かと思って怒りつつ振り返ったそこにいたのは 「なんてね」 「なんだメグかぁ」 恵だった。 「ちょうどいいや、ちょっと来てよ」 「?どこに?」 「いいとこ」 「ち、ちょっと痛いってメグ!自分で歩けるから!」 引っ張ってこられたのは人が滅多に来ない裏庭だった。ちづるは地面に投げ出されるように叩き付けられる。 「な、何?」 顔と手の甲、それから膝と太ももに擦り傷を負いながら、かろうじて目を開けた。 「こっちが聞きたいわよ」 恵はいつもの気の弱そうな顔立ちではなかった。 蔑み睨むような視線。 「裏切り者」 「な…何のこと!?」 「トボけないでよ!!水吹くんの好きな人って、ちづるなんでしょ!!初めから知ってて2人で笑ってたんでしょ!!?」 「違う!」 あの便覧…やっぱり見られていたんだ。あの時、メグは見てたんだ。 「そんなことしてない!」 「嘘っ!!!」 言うと恵はスカートのポケットからカッターナイフを取り出した。 その刃が一閃したのは、ちづるの長い髪。 『あれ?髪下ろしてるやん』 パラパラとこぼれ落ちる髪の欠片。 『そっちの方が可愛いで』 「い」 『か、可愛いとか簡単に言わない方がいいわよ!』 「いやぁああぁああああああ!!」 「さ、ちづるが悪いのよ。教えなさいよ『秘密』を」 「え?」 「あんたのことだから、どうせ秘密握ってお情けでつき合ってもらってるんでしょ」 何言ってるの?メグ? 『水吹くんてカッコいいよね〜』 そんなの私の知ってるメグじゃないよ 『聞いてちづる!水吹くんに名前覚えられてた!』 いつもの優しいメグじゃないよ 『水吹くんに告ろうと思うんだけど、ついて来てくれる?』 ねぇ…メグ 『好きです!』 なんでそんなに悲しそうな顔してるの? 「秘密…水吹くんの特技…」 もういいよ もうやめよう 水吹くん メグ ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい 「水吹って1年の関西弁の!?」 突然通りすがりの男子生徒の声が二人の耳に届いた。 「あぁなんか校門にすっげー車が乗り付けてんだよ」 「見に行こーぜ」 「何でも京都から迎えに来たとか」 |










